公務員の異動内示はいつ?内示が遅い理由と部署配属ガチャを解説

人事異動は公務員の世界で一大イベントです。異動内示がでた日は悲喜こもごも、あちらこちらで噂が飛び交います。内示は異動に伴う昇任人事の発表でもありますから、昇任される人のもとへはお祝いの電話がかかってきたり、お世話になった人へと挨拶回りをしたりと、ほぼ仕事になりません。
内示の発表はいつもギリギリで異動する本人も当日まで分からないことも多く、働く職員からは”なぜもっと早く内示を教えてくれないのか”という声も多くあがっているのが実情です。
広域自治体になればなるほど、引っ越しを伴う異動も増えます。引継ぎ時間も限られ引継ぎ資料作成のために休日出勤することは当たり前。前もってわかっている異動情報を隠すなら早く情報を教えてくれという気持ちは理解に容易いと思います。
しかし、公務員の異動内示が遅いことにはちゃんと理由があります。建前と本音を解説します。
公務員の異動内示はいつ?
内示とは、人事異動を公表する前に職員にだけ発表される情報のことを指します。異動日と同時に発表したのでは引継ぎなど新体制に向けた準備ができません。異動日の前に「誰が」「どこに」異動するのかを発表することで準備する時間を確保します。これが「内示」です。
人事異動の決め方については「公務員の人事異動は本当に運!決め方と発表時期について」で詳しく解説しています。
多くの自治体では、新年度となる4月1日付で異動となります。内示は一般的に、異動日の1~2週間前に発表されます。自治体によって内示日は異なり、基本的には自治体の規模が大きいほど内示日は早くなります。異動日の当日という自治体もあるようですが、異動が決まった職員はこの間にすべての引継ぎを終わらせる必要があります。
1週間~2週間前の内示は引継ぎ期間としては非常に短いと感じます。引っ越しが必要な場合は、この2週間で引越し先の家や引越し業者まで手配しなければなりません。
内示は外部に口外してもいい?
あくまで内示は機密情報です。本来は内部の人しか知りません。口外すれば厳密には守秘義務違反となる可能性もゼロではありません。
しかし、自分が担当している業務委託先や請負先には前もって伝えておかなければ業務に支障をきたす可能性もあります。そのため、異動前に後任者を連れて挨拶にいくこともあります。相手方も建前はわかっているので、相手方も口外しないことを約束しての訪問とはなります。
とくに権力者になるほど異動の挨拶にはうるさいですから、本音と建前を使い分けることになります。
新規採用職員の内示はいつ?
新規採用職員の場合、内示のタイミングでは入庁してませんから、新規採用職員が知るのは4月1日になります。また、入庁後の研修後(研修最終日)に配属が発表する自治体もあるようです。
なお、新規採用職員の異動にあわせて4月1日以降に座席の移動や事務分担の変更など配属先は準備していますので、新規採用職員研修の時点で既に異動先は決まっています。
内示を断ることはできる?
基本的に内示を断ることはできません。内示=異動となります。
介護や育児などの諸事情は異動前の人事面談で聞くことは義務となっており、内示前には本人に承諾を得ることが内示の条件となっていますから、諸事情を理由にして内示を拒否することはかなり難しいです。どれだけいきたくない嫌な部署でも最低1年は我慢して、次の異動を希望することが現実的です。
意見や文句を言うことは可能です。可能ですが、それによって異動先が変わることはまずありません。管理職は内示と異動が異なることが稀にありますが、本当に稀です。
公務員の人事異動は新聞に掲載される
公務員の人事異動は地域新聞に載ります。幹部の人事異動は政治が絡みますから、地域新聞だと管理職以上の異動は実名公表です。
なぜ公務員の異動内示は遅いのか?
公務員の異動内示が遅い理由は、議会承認を得ていないためです。次年度予算が成立しなければ、次年度の事業も成立しません。職員の給与も予算ですから、予算が成立していない以上、人員配置は決められません。議会承認より内示を先に発表することは議会軽視にあたります。
しかし、これはあくまで建前です。本音のところは、人事側に全くメリットがないからです。人事異動を早々に発表することはデメリットしかありません。
- 仕事をしなくなる職員が増える
- 人事異動に対して意見をする職員が増える
- 諸事情で休職や退職する職員がいる
上記のデメリットに対応するためには、内示は遅いほどいいわけです。
理由①:仕事をしなくなる職員が増える
職員が仕事をしなくることが一番大きな理由です。公務員は異動後に異動前の業務をすることはできません。基本的に後任が全て引き継いで処理する必要があります。
今年度にやっておいたほうがいい仕事も後任に任せて業務を進めようとしない職員がでてきます。管理職も同じで、自分が判断すれば責任が伴いますから、判断を後任に任せる、要は逃げる幹部も少なくありません。
- どうせ異動するし、適当に承認して業務を進めようとする職員
- 異動が決まった以上は自分で判断しない、全て後任に判断を任せる管理職
- 今から進めても自分がしんどいだけ、後任に引継げばいいとなる職員
これが退職となればもっと顕著になります。
希望通りの異動先になる職員は一握りです。希望通りとなる職員はごく少数であり、希望が叶わなかった人の方が圧倒的に多いですから、とくに行きたくない部署への異動の発表は職員のモチベーションを大きく下げることになります。
異動するまでにできる限りやれることはやっておこう!と後任者のことを思って頑張ろうとする職員もいますが、管理職が同じ方向を向いてくれないタイプでなければそこで試合終了です。
理由②:人事異動に対して意見をする職員が増える
内示に不満があっても覆ることはまずありません。しかし、文句を言う職員は必ずいます。その職員の多くは、異動までの調整時間がある=自分の異動先が変更になる可能性がある、と思っています。
人事側からすれば、意見を聞く時間は与えなくてはいけませんが、そもそも意見を聞いたところで異動先が変わるわけではないので、時間は短いほうがいいわけです。
理由③:諸事情で休職や退職する職員がいる
介護や育児などの諸事情で休職・退職する職員がでますし、結婚や配偶者の転勤で退職する職員も少なくありません。また、来年度採用予定者から内定辞退の連絡があるかもしれません。
直前になって分かる場合も多く、異動後に退職となれば半年から一年は欠員のまま業務を進める必要がでてきます。直前まで対応できる時間を確保しておきたいという実情があります。
異動内示の発表を早い時期にするメリットは、
- 引っ越しを伴う場合は住居の決定やインフラの契約に時間が確保できる
- 異動先での業務の把握
- 引継ぎをスムーズに行える
ことがあります。
しかし、部屋探しは土日でやれますし、異動先での業務は異動後にならないと実態が見えませんから優先されるメリットでもありません。また、引継ぎについては、普段から準備をしておけばよいだけです。自分も上司も異動しなくても業務分担は変更になる可能性がありますから、異動時期が明確である以上は本人の準備不足としか言われても仕方がありません。
人事側の視点に立ってみると、公務員の異動内示が遅い理由を理解してもらえたのではないでしょうか。
公務員は配属部署ガチャによって天国にも地獄にもなる理由
人事異動は本当に運です。
- 部署ガチャ
- 同僚ガチャ
- 上司(部下)ガチャ
のすべてをクリアしても、事務分担によっては仕事が嫌になるかもしれません。
担当者の「上司ガチャ失敗したわ~」という声も理解できますが、上司からしても部下ガチャはあります。むしろ、係長や課長はまがいなりにも出世競争を勝ち抜いた人たちですし、部下の方が圧倒的に人数が多いため、嫌な人と遭遇する確率でいえば係長のほうが多いです。
公務員の人事異動は多くの要素によって左右されます。上にいけばいくほど政治の要素も加わり、役所内だけで完結する話でもありません。
私も10年ほど地方公務員として働いていますが、希望通りに異動できたことはありません。むしろ、希望通りの人は本当に一握りだと考えておかないと、定年退職まで精神的に耐えられませんよ。人事面談で絶対に行きたくない部署を答えたその部署に翌年異動になったなんてよく聞く話です。
公務員の仕事は多岐にわたり、道路工事をやっていた人が人事を担当することもあれば、税務を担当していた人が生活保護を担当することもあります。配属される部署がどんな仕事をしているかによって、やりがいもストレスも雲泥の差です。
業務量
人事、企画、財政の部署に配属されれば、業務量は確実に増加します。定時で帰れることはまずありません。企画ともなれば首長直轄ですから、スピード感も他の仕事と一線を画すことになります。
財政で補助金の申請を忘れ懲戒処分される事例が毎年自治体で報告されていますが、一つのミスが重大なエラーに繋がるため抱えるストレスも大幅に上がります。観光部局になると、土日はイベントに参加したりと、プライベートを犠牲にする必要もでてきます。
一方、閑散部署に配属されれば、忙しさは皆無、毎日定時ダッシュ可能です。
出世にも影響
出世したい人は忙しいとされる部署に異動希望することをおすすめします。
出世できない部署の仕事ができる人よりも、出世できる部署にいる仕事ができない人のほうが出世は早いです。これは、個人の能力以前に仕事の難易度を業務量で評価する傾向が強いからです。仕事ができると個人的に評価されたとしても成果が見えにい部署だと評価してもらえません。
働く環境
機能面が段違いです。フリーアドレスで席を決めず自由、トイレも様式で温水洗浄便座で綺麗な部署がある一方、昭和に建てられた和式便所で椅子も机もボロボロなんてこともあります。冷暖房設備でどれだけ使っても文句を言われない部署がある一方、夏はうちわと扇風機、冬は毛布で過ごさなければいけない部署があります。
モチベーションももちろんですが、職場環境の落差が激しすぎて、同じ役所かと思うことも多々あります。
公務員は上司、部下、同僚、前任者のガチャを失敗すると1年が終わる
問題は部署だけではありません。上司、部下、同僚、前任者といった人のガチャも存在します。
上司ガチャ
上司によって、部下がかかえる仕事のストレスは全く違います。どんな環境で同僚に恵まれても、上司がクソだと勤務環境は最悪です。
常に100点を要求してくる上司、常に幹部や議員の顔色を伺う上司、責任を取らない上司、判断をしない上司、業務について全く何一つ作業をしない上司、パワハラ上司、セクハラ上司、上げればキリがありません。
上司は選べません。ただ、一定の評価を受けていないと出世できないことは事実です。そのため上司ガチャは失敗するよりも成功する確率の方が高いですが、失敗したら係全員がお葬式状態で毎日過ごすことになっています。
私もパワハラ上司と仕事をした経験がありますが、人生で一番つらい毎日でした。一生涯忘れることはないでしょう。
部下ガチャ
上司ガチャが良くピックアップされますが、実は部下ガチャも存在します。上司からしても、指示に従わない部下、嘘の報告をする部下、ミスを隠す部下、苦労する部下がいることは上司も同じです。上司からすれば部下の人数分ガチャの回数も多くなります。
上司からすれば部下ガチャの回数は多いですから、それなりに大変です。ただ、上司とは地位も権力も違いますから、同じとして扱うことは注意が必要です。
同僚ガチャ
自分の係以外にダメな同僚がいても対した問題ではありません。しかし、自分の係だと別。1人でも仕事をしない人がいれば、その負担は周りのメンバーでカバーしなければなりません。2人いればその分ですから、負担は相当なものになります。
ただ、公務員は同僚と一緒に仕事をするよりも上司と一緒に仕事をする方が圧倒的に多く、部下からすれば同僚がダメならそれは上司が指導すればいいという感覚なので、上司からすれば大変ですが担当間の実被害はそこまで大きいものではありません。
前任ガチャ
前任がダメだと後任は大変です。異動した後に見つかる懲戒処分モノのミス、引継ぎ書がなく業務のヒントがないことも往々にして起こり得ます。公務員の世界は後任が前任のしりふきをしなければいけない文化があります。
どれだけ前任がミスを起こしていようが、謝罪したり解決するのも後任の責任になります。前任のミスは前任に責任を負わせるべき部署を異動したからといって消えてなくなるものではありません。この文化はいますぐにやめるべきですが、そうもいかないのが実情です。
人事異動ガチャのメリットとデメリット
今がいくら働きやすい環境であっても1年後は天国から地獄に。その逆も然り、誰にも訪れる可能性があります。
嫌な人と離れることも自動的に行われ、相手と自分の異動期間を考えれば最低3年間が我慢すればどちらかが異動になります。今の業務内容がおもしろくなく飽きたとしても人事異動でリセットされます。デメリットと捉える人もいればメリットと捉える人もいるのではないでしょうか。
公務員人生を左右するのは「人事異動」といっても何ら過言ではありません。人事異動によって、これまでの最高がこれからの最悪に変わる可能性はいつもそばにあるからです。
公務員の人事異動は、転勤や転職に近い
公務員の人事異動は本当に多岐にわたります。国家公務員の場合、北は北海道から南は沖縄まで、関東圏や近畿圏などの異動は当たり前です。地方公務員でも都道府県の場合は、東西南北の出先事務所に配属されることになります。
もはや「転勤」です。
実際、単身赴任中の職員は多くいます。人事異動は1年から3年でおこなわれますから、そのたびに家族を連れて引っ越しをするというのは非常に困難です。
扱う仕事も多岐にわたります。道路工事をやっていた人が、生活保護(ケースワーカー)を担当するような人事異動もあります。正反対どころか、全く分野の違う仕事を定期的にこなさなければ、公務員は務まりません。
人間関係が加わるともう滅茶苦茶
ただでさえ、公務員の異動は転勤を伴う転職レベルなのに、これに人間関係が加わるともう滅茶苦茶です。
あなたが異動しなくても、他の人が異動すれば、職場の雰囲気や働き方はがらっと変わります。とくに、上司の仕事の仕方が変わることは非常にストレスです。以前と同じ仕事をしているのに、上司が変わるだけで、定時ダッシュの毎日から終電の毎日、なんてこともあります。
これほど影響力があるにもかかわらず、人事異動は「運」です。あくまでイメージですが、みなんなで楽しく結婚式をやっていた職場が一年後に葬式状態になることもザラです。それほど、職員の質は職場の雰囲気や働き方に影響を及ぼします。
実は、多くの公務員が転勤は経験したくない
国家公務員の働き方に関する内閣人事局のアンケート(調査は各府省などに勤務する約3割の職員を無作為抽出して行い、約4万5千人が回答)によると、
キャリア(職業上の経験)としての転勤について、63.5%が「経験したくない」と答えている。引っ越し費用や子どもの就学・受験、赴任後の経済負担の大きさなど、仕事と生活の両立の観点で重荷になっていることが主な理由。
回答者の73.3%に転勤経験があり、4割近くがこれまでに5回以上の転勤を経験。転勤時に期待する配慮(複数回答)では、「早期段階での意向確認」が約7割と最も多く、「早期の内示」と「引っ越し費用の経済的な負担の軽減」が約6割で続いた。
つまり、国家公務員の多くが転勤したくないと思っているにもかかわらず、未だに人事異動という名の転勤が行われています。
適材適所の人事とはよく言ったもので、民間企業での実務経験とは何も関係のない部署への配属も多いです。
国から地方自治体に転職した人に話を聞くと、やはり家族をもつと転勤がネックなようで、仕事自体は嫌ではなかったが、定年まで転勤(単身赴任)生活を続けることはできないと思って転職したとのことです。
仕事がつらいからといって勢いで退職するのはやめるべき理由
公務員は人事異動のたびに仕事内容や人間関係が変わります。同じことを上司が変わる度に何度も何度も説明するのも疲れますし、面倒くさいし嫌にもなります。
役所の人事異動は上を優先しますから、3年間のうちに上司は1年毎に変わったとかはよくある話です。今まで培ったノウハウや知識が全く使い物にならない仕事もありますから、またゼロから知識をいれていかなければなりません。
また、一から勉強か・・・と、気持ちは分かりますが、その都度ストレスを抱えていたのでは、公務員として長くやってはいけません。だからといって、すぐに退職を考えるのはナンセンスです。
- こんな仕事やりたくない
- 公務員は自分には合わない
- 職場の人間関係が嫌い
などの理由で公務員を退職することはおすすめしません。なぜなら、目的がない転職に意味はなく、転職先でも同じことを繰り返すからです。
- こんな仕事やりたくない ⇒ 何ならやりたいのか
- 公務員は自分には合わない ⇒ 自分に合う仕事はなにか
- 職場の人間関係が嫌い ⇒ 転職しても人間関係のリスクは同じ
現在の何が嫌で、何を解決できるから転職するのかをよく考えてください。例えば、20代で年収1000万円を達成したい!といった明確な理由があればいいと思います。公務員では不可能です。
転職が正解か不正解かは自分でしか判断できません。人から言われてどうこうなるものではありません。なので、その評価基準をもって転職することが大切です。
目的が明確でなければ、公務員でいたほうが絶対にいいです。現役の公務員の人ほど公務員にネガティブイメージをもってしまうのは仕方がないことです。誰しもないものねだりですし、隣の芝生は青く見えます。冷静な目で世間的にどうかを考えたときに、やっぱり公務員は恵まれている職業だと思います。
もちろん、公務員として長く働くことが大切なことではありません。嫌なら逃げ出すことは賛成です。であれば、まず、自分がやれることをやってみてください。
公務員は人事異動によって、急に崖下に落とされることもあります。しかし、バカンスになる可能性もあるわけです。忘れないでほしいことは、自分から動かずしてバカンスはやってきませんし、崖下をバカンスにできるのも自分自身だということです。
転職レベルの異動を繰り返すのが公務員の世界です。