人事異動は公務員の世界で一大イベントです。異動内示がでた日は悲喜こもごも、あちらこちらで噂が飛び交います。
内示は異動だけではなく、異動に伴う昇任人事の発表でもありますから、昇任される人のもとへはお祝いの電話がかかってきたり、お世話になった人へと挨拶回りをしたりと、ほぼ仕事になりません。
内示の発表はいつもギリギリで異動する本人も本当にその日に分かることも多く、働く職員からすれば、なぜもっと早く内示を教えてくれないのかという声も多くあがっているのが実情です。
広域自治体になればなるほど、引っ越しを伴う異動も増えますし、引継ぎ時間も限られ引継ぎ資料作成のために休日出勤することもあるほどです。
前もってわかっている異動情報をあたためておくなら早く情報を教えてくれという気持ちは理解に容易いと思います。本記事では、公務員の人事異動はいつなのか、なぜ公務員の異動内示は遅いのか、建前と本音を解説します。
公務員の異動内示はいつ?
まず、内示とは、人事異動を公表する前に職員にだけ発表される情報のことを指します。就活での内定と同じような意味合いと考えてもらえればいいと思います。
多くの自治体では、新年度となる4月1日付で異動となります。異動日の前日3月31日に異動内示発表したのでは引継ぎなど新体制に向けた準備ができませんから、前もって「誰が」「どこに」異動するのかを発表しておく必要があります。これが「内示」です。
人事異動の決め方については「公務員の人事異動は本当に運!決め方と発表時期について」を参照してください。
内示は一般的に、異動日の1~2週間前に発表されます。自治体によっては異動日の当日というところもあるようで、異動が決まった職員はこの間にすべての引継ぎを終わらせる必要があります。
私の自治体では、内示日に所属長から直接伝えられ、逆に呼ばれなければ、自分は異動しません。
1週間~2週間前の内示は引継ぎ期間としては非常に短いと感じます。引っ越しが必要な場合は、この2週間で引越し先の家や引越し業者まで手配しなければなりません。
内示は外部に口外してもいい?
あくまで内示は機密情報です。本来は内部の人しか知りません。厳密には守秘義務違反となる可能性もゼロではありません。
ただ、自分が担当している委託先や請負先には前もって伝えておこかないと異動日以降に混乱をきたす可能性もありますから、異動前ですが後任者を連れて挨拶にいくこともあります。
相手方も建前はわかっているので、相手方も口外しないことを約束しての訪問とはなりますが。
新規採用職員の内示はいつ?
新卒者の場合、内示のタイミングでは当然入庁してませんから、新卒者が知るのは4月1日になります。
新規採用職員の場合は、入庁後の研修後の配属部署へ異動となりますから、研修最終日に異動が発表される自治体もあるようです。なお、新採の異動にあわせて4月1日以降に座席の移動など準備しているので、研修の時点では既に異動先は決まっています。
内示を断ることはできる?
基本的に内示を断ることはできません。内示=異動となります。
介護や育児などの諸事情は異動前の人事面談で聞くことは義務となっており、内示前には本人に承諾を得ることが内示の条件となっていますから、諸事情を理由にして内示を拒否することはかなり難しいです。どれだけいきたくない嫌な部署でも最低1年は我慢して、次の異動を希望することが現実的です。
意見や文句は言えるかもしれませんが、それによって異動先が変わることはまずありません。管理職は内示と異動が異なることが稀にありますが、本当に稀です。
公務員の人事異動は新聞に掲載される
公務員の人事異動は新聞に載ります。
幹部の人事異動は政治が絡みますから、地域新聞だと管理職以上の異動は実名公表です。
なぜ公務員の異動内示は遅いのか?
公務員の異動内示が遅い理由は、議会承認を得ていないためです。
次年度予算が成立しなければ、次年度の事業も成立しません。事業が成立していない以上、人員配置は決められませんから、議会承認より内示を先に発表することは議会軽視にあたります。
しかし、これはあくまで建前です。
本音のところは、人事側にメリットが全くないからです。
人事異動を早々に発表することはデメリットしかありません。
- 職員が仕事をしなくなる
- 人事異動に対して意見をする職員が増える
- 諸事情で休職や退職する職員がいる
上記のデメリットに対応するためには、内示は遅いほどいいわけです。
理由①:職員が仕事をしなくなる
正直、職員が仕事をしなくるのが一番大きな理由です。公務員は異動後に異動前の業務をすることはできません。基本的に後任が全て引き継いで処理する必要があります。
となれば今年度にやっておい方がいい仕事も後任に任せて業務を進めようとしない職員がでてきます。管理職も同じで、自分が判断すれば責任が伴いますから、判断を後任に任せる、要は逃げる幹部も少なくありません。
- どうせ異動するし、適当にハンコを押して業務を進めようとする人
- 異動が決まった以上、自分が判断はしない、全て後任に判断してもらえとなる管理職
- 今から進めても自分がしんどいだけだし、後任に引継げばいいかとなる職員
これが退職ともなればもっと顕著になります。
異動先は希望通りとはいきません。希望通りとなる人はごく少数であり、希望が叶わなかった人の方が圧倒的に多いですから、特に行きたくない部署への異動の発表は職員のモチベーションを大きく下げることになります。
異動するまでにできる限りやれることはやっておこう!と後任者のことを思って頑張ろうとする職員もいますが、管理職が同じ方向を向いてくれないタイプであれば終了です。
理由②:人事異動に対して意見をする職員が増える
内示に不満があっても覆ることはまずありません。しかし、文句を言う職員は必ずいます。
そしてそういった職員の多くは、異動までの調整時間がある=自分の異動先が変更になる可能性がある、と思っています。人事側からすれば、意見を聞く時間は与えなくてはいけませんが、そもそも意見を聞いたところで異動先が変わるわけではないので、時間は短いほうがいいわけです。
理由③:諸事情で休職や退職する職員がいる
介護や育児などの諸事情で休職・退職する職員がでますし、結婚や配偶者の転勤で退職する職員も少なくありません。また、来年度採用予定者から内定辞退の連絡があるかもしれません。
前もって分かっていればともかく直前になって分かる場合も多く、異動後に退職となれば半年、一年は欠員のまま業務を進める必要がでてきますので、直前まで対応できる時間をおいておきたいという実情があります。
まとめ
公務員の異動内示が遅い理由の本音と建前について解説しました。
異動発表を早い時期にするメリットは、
- 引っ越しを伴う場合は住居の決定やインフラの契約に時間が確保できる
- 異動先での業務の把握
- 引継ぎをスムーズに行える
ことがあります。
しかし、部屋探しは土日でやれますし、異動先での業務は異動後にならないと実態が見えませんから優先されるメリットでもありません。
また、引継ぎについては、普段から準備をしておけばよいだけで、自分が異動せずとも上司が異動になれば後任の上司に事業を説明する必要があります。また、自分も上司も異動しなくても業務分担は変更になる可能性がありますから、異動時期が明確である以上は本人の準備不足としか言いようがありません。
人事側の視点に立ってみると、公務員の異動内示が遅い理由を理解してもらえたのではないでしょうか。