公務員として働きながら、本を書いて、出版すれば印税でウハウハ・・・
なんてこと考えたこともあるのではないでしょうか。
文章を日常的に書いている公務員であれば執筆活動にそれほどの抵抗もなく始められるため、副業としては最適かもしれません。
しかし、公務員が作家活動をすることは、その内容如何によっては公務員法に抵触しますので注意が必要です。
副業としてお金を稼ぐことはもちろんのこと、稼いでいなくても懲戒処分を受ける可能性もあります。
とはいえ、民間企業への従事など、一般的に禁止されている副業ではありません。
そのため、公務員としての常識の範囲内であると認められれれば副業は可能です。
事実、本を出版している現役の公務員もいます。
本記事では、公務員が執筆活動をして懲戒処分を受けた事例も参考に解説します。
※ここでの「公務員法」とは、国家公務員法と地方公務員法を指します
公務員が作家になることは可能
公務員が本をだすことは可能です。
私が勤める自治体でも(その人は技術屋のトップでしたが)本を出した人はいます。
現役の公務員が作家活動している事例
公務員を辞めずに副業として活躍している人を紹介します。
東京都区役所職員「砂川文次」さん
公務員を続けながら2022年第166回芥川賞を受賞。受賞作は「ブラックボックス」。
2016年「市街戦」で第121回文學界新人賞を受賞。
元自衛官で、現在は区役所職員として働く31歳男性。
現役の公務員が作家になった事例
代表的な方々を紹介します。
公務員⇒プロ作家になっている事例です。
宇都宮市職員「立松和平(本名:横松和夫)」さん
市の職員として働きながら、栃木に関する作品を多数執筆
作家活動に専念し、『道元禅師』で泉鏡花文学賞を受賞や、他にも『遠雷』や『卵洗い』などでも多数の賞をとられています。
福岡市職員「三崎亜記」さん
市の職員として働きながら小説を執筆し『となり町戦争』で小説すばる新人賞を受賞し作家デビュー
『失われた町』や『鼓笛隊の襲来』も有名な作品で直木賞候補にも選出されています。
八王子市職員「篠田節子」さん
『絹の変容』で小説すばる新人賞受賞、
『女たちのジハード』で直木賞を受賞されています。
長崎市職員「青来有一(本名:中村明俊)」さん
2019年3月末に定年退職するまで、公務員として働きながら執筆活動を行い、「聖水」で芥川龍之介賞を受賞されています。
「ジェロニモの十字架」「ウネメの家」「泥海の兄弟」「信長の守護神」など多くの作品を世に送り出されています。
公務員が副業で作家活動をするときの注意点
公務員が働きながら副業として本を出すことは問題ありません。
「本業に支障をきたすことがないことを理由に作家活動は問題ない」としている情報もありますが、明らかな間違いです。
執筆活動は本業に支障をきたさなくて、アルバイトが支障をきたすような因果関係なんて存在しません。
本を書くため睡眠時間を削って睡眠不足で本業をしている人と、1日1時間だけアルバイトをしている人では、前者の方が明らかに本業に支障をきたす可能性は高いはずです。
精神的な疲労や身体的な疲労に関係なく、本業に支障をきたしていると判断されたときに、その原因を(関係がなくとも)紐づけられるという関係性にあることを認識してください。
公務員が執筆活動をするうえでのポイントは、その書く内容です。
執筆活動は、営利目的よりも表現や趣味の範囲内とみなされますが、なんでもかんでもOKというわけではありません。
また、1円も稼いでいない、むしろ赤字だから大丈夫!・・・ではないのが公務員の世界、公務員のルールです。
稼げていなくても問題になる場合もあります。
では、特に注意すべき3点を解説します。
守秘義務違反
公務員はその身分上、業務で知りえた内容については口外してはいけません。
退職してもダメです。未来永劫の義務になります。
本の内容にこれらが含まれていることは公務員法違反になりますから、注意が必要です。
信用失墜行為
公務員の信用を失墜させる行為については、公務員法によって禁止されています。
本の内容が、犯罪を想起させるものや暴力的なものであれば一定制限がかかります。
もちろん、憲法に規定する「表現の自由」との兼ね合いもありますが、完全に自由な表現はできません。
そのため、本当に自分が書きたい本の内容が上記のような内容の場合は、公務員を辞めるほかないでしょう。
もちろん、本業に支障をきたしている場合はアウトです。職務専念義務違反に
無許可
公務員の副業は原則、任命権の許可が必要です。
株式投資など、無許可で問題ない副業もありますが、
作家活動においては任命権者の許可が必要です。
無許可で本を書いて、出版していたことがバレれば懲戒処分を受けることになります。
公務員が本を販売して懲戒処分を受けた事例
現役の公務員が執筆活動をして利益を得ていたとして懲戒処分を受けた事例を紹介します。
2020年11月18日 情報提供により発覚
高知県教育委員会は、県立特別支援学校の40代教諭が同人誌を製作して利益を得ていたことが地方公務員法に違反したとして「戒告」の懲戒処分した。
漫画同人誌を製作して2013年2月から7年半にわたって即売会やネット通販で52作品17000部を頒布、約175万円の利益を得ていた。
この事例での問題は、
- 無許可
- 長期間に渡って活動している
- 販売会やインターネット通販をし、実際に利益を上げている
- 男性同士の恋愛を描くボーイズラブ(BL)の漫画同人誌は二次創作であり、著作権法の抵触の可能性がある
これらを総合的に判断した結果、公務員の信用失墜行為にあたると判断され懲戒処分を受けたものです。
事前に許可申請をしていれば、その都度判断をされることになりますので、必ずしも許可がでていたわけではありません。
過去には教職員が自費出版をした例があり、執筆活動自体を制限するものではないと担当者の見解もあることから、事例ごとの判断となります。
なお、「7年半で約175万円なら活動費を考えると利益はほとんどなく、赤字の可能性もある」との意見もあると思いますが、
先ほど述べたように、お金を稼いでいないからといって大丈夫なわけではありません。
ネット通販までいくと、明らかに営利目的と判断される可能性も高くなります。
また、
2021年10月、神奈川県平塚市は28歳男性職員(主事)が休職中に無断で小説を出版し、およそ320万円の報酬を得たとして停職6カ月の懲戒処分にしました。男性職員は依願退職しました。
2020年7月から2021年10月まで病気で休職していた間に市の許可を得ずに小説4冊を出版し、電子版も含めておよそ320万円の報酬を得ていました。さらにツイッターに9531回、小説投稿サイトに256話を投稿し、書籍の宣伝を行っていました。
男性主事が執筆していたのは恋愛やファンタジーを描いた若者向けのライトノベル。学生時代から趣味で小説の執筆や投稿などを行っていたといい、市に対して「公務員をしながら小説を書く作家も多いので許可が必要とは思わなかった。悪いことと思っていなかった。 学生時代に書き溜めたものを出版した」と説明したという。
「職員が小説を出版し、報酬を得ている」という匿名の通報があり、市が男性職員に聞き取りをしたところ、本人が認めたということです。
地方公務員法上、許可を得れば執筆活動は可能です。
しかし、このケースは無許可かつ病気休職期間中であったため、早期復職のため療養に専念する義務が課されていました。
休職中は給与を支給されますから当然です。
ただ、申請しても許可されていたかは別の話。日ごろの業務に関する専門誌への寄稿と小説の執筆活動は別ですから。
どちらのケースも通報によってバレたわけですから、小説の執筆を隠すことは難しいのかもしれませんね。