公務員が懲戒免職処分になると退職金、年金、失業保険はどうなる?
公務員が懲戒免職処分を受けたとき、その後の人生はどうなっていくのでしょうか。
退職金、年金、失業保険が貰えないとすれば、アルバイト等で食いつなぐしかありません。
その後の人生を逃げ切れるのか?ということが気になりますよね?
そんな疑問にお答えします。
麻雀賭博が問題となった東京高検の黒川弘務検事長の事例もご紹介します。
公務員が懲戒免職処分になった場合の退職金はどうなる?
公務員は、懲戒免職になった場合の退職金は規定に準じることになっています。
公務員が懲戒免職になった場合も、法律や条例に基づき退職金は支給が制限されます。
国家公務員退職手当法12条1項によれば、在職中の職務とその責任、行った非違行為の内容と程度、それが公務に対する国民の信頼をどの程度損なわせたかなどを考慮し、退職金の全部又は一部を支給しないという処分を下せます。
すなわち、退職金の不支給又は減額がありうるのです。
つまり、退職金ゼロなんてことも往々にして起こりうるのです。
しかし、言いなりというわけではありません。
国民の信頼をどの程度損ねたかの基準なんて判断する人のさじ加減なところもありますからね。
その場合、退職金の支給制限に不満として不服申立ができます。
裁判を起こせます。
仮に懲戒免職やそれによる退職金の支給制限に不満がある場合は、公務員は「雇用主の行政機関に対し不服申立」をすることができます。
仮に、公務員が飲酒運転を理由に懲戒免職と退職金不支給の処分を受けた場合は、裁量権の濫用だとして、市の人事委員会に不服申立することができます。
実際に裁判で退職金をもらったような事例もありますので、公務員が懲戒免職処分を受けたからといって、すべてのケースで一概に退職金がゼロということはありえません。
しかし、公務員が懲戒免職処分を受けるということは、基本的に犯罪レベルの行為をしていなければなりません。
昔は一切出なかったことを緩和しているのが現行ですから、そのことから鑑みると、裁判に勝ち、仮に貰えたとしても少額になる可能性が大きいでしょう。
事例としては、2018年8月、大津市の行政改革推進課長だった男性職員が飲酒運転で物損事故を起こし、同年10月に懲戒免職処分を受けました。
元職員は懲戒免職処分及び退職金の全額無支給は市の裁量権の逸脱ないし乱用があったとして大津地裁に訴えます。
結果、懲戒免職処分は市の裁量の範囲内としましたが、退職手当全額不支給処分については裁量権の逸脱ないし乱用があったと認めました。
要は、クビはクビだけど、退職手当を全額支給しないのはやりすぎだという判決です。
飲酒運転をして物損事故を起こしたとはいえ、人を傷つけたわけではなく、社会的に重い結果を生じさせたわけではないことが理由です。
いわゆる情状酌量と言われるものです。
まだ、市が上告するかは定かではないため判決は確定していませんが、懲戒免職処分=退職手当が0というのは短絡的かもしれません。
とはいえ、これはレアケースであって、多くの場合は退職手当は支給されません。
例えば、宮城県の公立高校元教諭(60)が飲酒運転で懲戒免職になったケースでは、退職金の支払いを県に求めていた裁判で、最高裁は「支給を認めない」判決を下しています。
このケースでは、一審判決は、懲戒解雇は妥当、退職金の不支給までは認めませんでした。
互いの控訴の結果、仙台高裁は、懲戒解雇は妥当、退職金については3割程度の支給が妥当と判断しました。
退職金は給料の“後払い”や退職後の生活保障の意味合いもあるとの解釈でしたが、お互いに最高裁に上告。
最高裁は、退職金不支給も懲戒免職も「妥当」という判決で結審しました。最高裁は退職手当は「勤続報償+給与の後払い+生活保障」だと判断しましたが、支給の有無や程度はあくまで勤務先に委ねらており、ケースバイケースで懲戒免職や退職金不支給は違法とすべきという見解を示しています。
公務員が懲戒免職処分になった場合の年金はどうなる?
では、年金はどうなるのでしょうか。
公務員も民間企業と同様に年金を納めています。ちなみに公務員の共済年金は2015年10月に厚生年金保険に一元化されています。
国家公務員法では以下のように規定されています。
(国家公務員共済組合法97条1項)
「組合員若しくは組合員であった者が禁錮以上の刑に処せられたとき又は組合員が懲戒処分(国家公務員法第82条の規定による減給若しくは戒告又はこれらに相当する処分を除く。)を受けたときには、政令(→国家公務員共済組合法施行令)で定めるところにより、その者には、その組合員期間(=掛け金を支払った期間のこと)に係る退職共済年金の職域加算額又は障害共済年金の職域加算額に相当する金額の全部又は一部を支給しないことができる。」したがって、懲戒免職となった者でも、「職域加算額」以外の「退職共済年金の基本額」は全額給付を受けられるのである。
退職共済年金の基本額は、平均標準報酬月額の1000分の7.5に相当する金額に組合員期間の月数を乗じて得た金額であり(国家公務員共済組合法77条1項)、「職域加算額」とは、(1)組合員期間が20年以上である者 平均標準報酬月額の1000分の1.5に相当する金額に組合員期間の月数を乗じて得た金額、(2)20年未満である者 平均標準報酬月額の1000分の0.75に相当する金額に組合員期間の月数を乗じて得た金額である(国家公務員共済組合法77条2項)。
そして、「職域加算額」が懲戒免職等の場合にどれだけ減じられるかについては、国家公務員共済組合法施行令11条の10第1項がこれを定めている。
すなわち、
(1)禁錮以上の刑に処せられた場合→100分の50
(2)懲戒処分によって退職した場合(懲戒免職が含まれる)→その引き続く組合員期間の月数が当該退職共済年金の職域加算額又は障害共済年金の職域加算額に相当する金額の算定の基礎となった組合員期間の月数のうちに占める割合に100分の50を乗じて得た割合したがって、懲戒免職となった者は、「職域加算額」については、最大50パーセント減額されることになるが、「職域加算額」はそもそも「基本額」の5分の1ないし10分の1であるから、全体の支給額のうち最大減額されるのは、12分1にすぎない(組合員期間が20年以上で、職域加算額が50バーセント減じられた場合が最大の減額になる。この場合、通常は、基本額7.5+職域加算額1.5の合計9の給付を受けられるところが、職域加算額が0.75になり、基本額7.5との合計8.25の給付を受けられるにとどまる。これは12分の1の減額である)。
地方公務員も条例で同様の規定が置かれている。
要は、まとめると、共済年金の一部が支給されなくなるだけで、約9割くらいは支給されます。
それは、地方公務員も国家公務員も同じです。
職域加算割合が低いためにおこる現象です。
現行では、厚生年金はまるまるもらえるということになります。
公務員が懲戒免職処分になった場合の失業保険はどうなる?
では、失業保険はどうなるのでしょうか。
公務員は雇用保険の対象外ですから、失業給付はありません。
退職金がその代替となっていると考えられているからです。
しかし、退職金が本来ならば失業給付に相当する額より少ない場合は、その差額相当額を補てんする仕組みがあり、失業認定に相当する手続きをハローワークでとることになります。
支給してもらう手続きは公務員共済組合への手続きで行います。
懲戒免職の場合は退職金がゼロですから、この失業手当相当部分の補てんの仕組みは利用できます。
懲戒免職の場合は自分に責任があり解雇されたわけですので、「自己退職」として扱われます。そうなると変わってくるのが、失業保険の給付日数と待機期間です。自己退職の場合は3ヶ月の待機期間があり、給付日数も少なくなります。
結果的に、失業保険の受給額も変わるといえるでしょう。
このことから公務員が失業手当、失業保険を受給できないというのは嘘であり、しっかり手続きを行えば受給できることがわかります。
しかし、公務員という職業柄、言い出しにくく泣き寝入りというパターンも往々にしてあると思います。
民間企業であれば退職はあたりまえです。リストラかステップアップかわからずとも入れ替わりが激しいためそんな気にはされません。
しかし、こと公務員は別なのです。
いくらステップアップで公務員を辞めても世間の評価は公務員を辞めた人になります。
どれほど仕事ができていても公務員程度で仕事を辞めるのなら民間では務まらないといったような目で見られます。
しかし、退職金や失業手当をもらうためには、そこを押しのけて、裁判を起こしたりする図太さが必要なのです。
辞任、退任、辞職など自ら辞めた場合の退職金は支給される
問題を起こした大臣が「責任をとって辞任(辞意)を表明」というニュースでも馴染みのある言葉があります。
この辞任とは、自ら任務・職務を辞することです。
ポイントは、辞職ではないということです。
辞職とは、その職業自体を辞めること、つまり、会社をやめる、国会議員をやめる、ということです。
つまり、辞任と辞職では全然意味が違ってくるわけです。
先の例でいくと、辞任は大臣という職務を辞するわけで、国会議員を辞めるわけではないのです。
なので、責任をとってというのは職務に就いている身分上の話であって、国会議員という職業自体の話とは別だということです。
実は、これにはからくりがあります。
懲戒処分は現役の公務員に適用される規定です。
よって、すでに辞めてしまった職員には、懲戒処分を出すことはできません。
簡単に言えば、懲戒免職処分になると退職金が1円も貰えませんから、その前に辞めてしまうことで退職金を全額貰えるわけです。
※国家公務員退職手当法の規定「辞める前に懲戒免職の処分を受けた場合は、原則として退職金は支給されない」
なので、先に辞任を申し出るわけですね。辞任であれば、退職金は支給されることになりますから。
とはいえ、この規定では、あまりにも一般常識とかけ離れています
そのため、
・人事院によれば、懲戒処分を受ける可能性がある職員から辞職願が出たときは、「ただちにやめさせるのではなく、事実関係を十分に把握したうえで、懲戒処分に付すなど、厳正に対処すること」を求めている。
・内閣人事局によれば、処分を受ける前に辞めてしまったとしても、在職中に懲戒免職を受けるような行為があったと認められた場合は、退職金の全部または一部を返納させることができるよう運用している。
とはいえ、結果的に懲戒免職にあたると判断できないときは、退職金を返納させることができません。
その場合は、「自主的な返納」を求めるしかないが、そう簡単な話ではないでしょう。
一度貰ったお金を、自主的に、それも数千万円単位で返す人はそういないでしょうから・・・
麻雀賭博が問題となった東京高検の黒川弘務検事長が辞職
最近では、麻雀賭博が問題となった東京高検の黒川弘務検事長が安倍晋三首相に辞表を提出していますよね。
この場合、辞任ではなく、辞職にあたります。
問題となった麻雀賭博はその常習性と賭け金によっては罪に問われます。
例えば、麻雀で買った方がジュースを奢ってもらったとしましょう
これは違法でしょうか?
麻雀ではなく、もっと身近なじゃんけんだとしらどうでしょうか?
じゃんけんだってれっきとしたギャンブルの一種です。
これを違法にしていては、日本国民全員が一度は逮捕されていることになりますね?
ゲームをするために、ある程度のお金を賭けることは、
そのゲームを楽しむうえで常識的な額であれば認められている、のが実情なわけです。
認められていなければ、日本中の雀荘が消滅していなければおかしいですから。
これらをふまえ、今回の騒動の焦点は、
- 検察庁のNo2という身分
- 新型コロナ対応で緊急事態宣言中(3密)
- 常識的な賭け金だったのか
- 常習性があったのか
- 賭博以外の便宜供与があったのか
大まかにはこの5点だと思います。
結果として、法務省は「訓告」処分としています。
口頭注意のようなもので、懲戒処分にはあたりません。
これは、人事院の「懲戒処分の指針」によると「賭博をした職員は減給または戒告とする」と規定していますから、
その規定よりも軽い処分となります。
免職>停職>減給>戒告 ここまでが懲戒処分です。
訓告や文書厳重注意などは厳密には懲戒処分ではありません。
これらは何ら不思議ではありません。
懲戒処分の指針はあくまで「賭博」について規定しており、賭博に当たるものなのかどうかがポイントですから。
そのため、このままですと、退職金は満額支給されることになります。
検事長の退職金は7,000万円以上にもなります。
一般的な公務員であれば2,000万円ですから、いかに重要な身分であるかが垣間見えます。
世間的には不服でしょう。
なぜ、懲戒免職処分ではないのか、
なぜ、退職金がでるのか、と
気持ちは十分に分かります。
しかし、過去の実績からも、懲戒処分を規定する指針からも懲戒免職処分は有り得ないのです。
検事長もいち国家公務員です。
仮に懲戒免職処分をしても、検事長が裁判を起こして訴えれば、法務省が負けることは明白でしょう。
場合によっては、訓告すらなかったかもしれません。
検察庁は刑事犯罪者を公訴する行政機関であり、その検察庁のNo2です。
役職もないヒラの職員であれば、辞めなくてもいい案件ですが、今回は立場が立場です。
社会的影響を考えても処分なし!とはいえません。
そういった背景もあり、今回のような処分になったと思われます。
個人的には、
安倍政権とズブズブだとマスコミから叩かれまくった検事長が、
むしろマスコミ側とズブズブだったことが判明し、
検察庁の独立性を担保しろと訴えていた人たちが、問題を起こしたら検事長を任命した責任をとれと主張する
矛盾しまくり状況に少し悲しくなりますが・・・
麻雀賭博が、常識的な賭け金だったのか、常習性があったのか
賭博以外の便宜供与があったのか
これらが明らかになれば、先の規定の通り、退職金の減額や自主返納など求められると思いますが、
現状では、常識の範囲内という印象です。
もちろん、今後明らかになる情報によっては、最悪の場合、逮捕まである案件ですが。