出向・派遣に選ばれる公務員はエリート?左遷か出世かは出向先次第

出向・派遣に選ばれた地方公務員は基本的にエリートです。公務員の世界において、出向とは出世街道まっしぐらな人が歩むエリートコースのようなもの。
「出向」と聞くと「左遷」をイメージする人が多いと思いますが、公務員では「栄転」であるケースがほとんどです。とくに地方公務員は国家公務員に比べて出向や派遣に選ばれる職員の数が少ないため出世の色は濃くなります。
ただし、出向先によって、出世の影響度が異なります。
公務員における「出向」「派遣」とは
地方公務員の人事異動は99.5%以上が内部異動ですが0.5%程度は外部異動となり、外部への異動=出向や派遣を指します。
職員の出向には、
- 身分を保持した在籍出向
- 一度退職する退職出向
の2つがあります。
退職出向は退職という体裁をとるだけで出向期間が終われば元の地方自治体へ戻ります(公務員試験を再試験するわけではありません)。国家公務員は退職出向となる場合がほとんどですが、地方公務員は半々です。
出向と派遣はあくまで手法であって別の組織の人間として働くという意味合いでは同じです。なお、出向の場合は出向元が、派遣の場合は派遣先が給料を支払います。また、退職出向の場合は健康保険証などの変更手続きが必要となり出向される職員は面倒くさい手続きが必要になります。
法人や民間企業への出向の場合は、国家・地方公務員法によって営利企業での従事等が禁止されていますが、人事交流の意味合いもありその手法はまちまちです。
地方公務員の出向・派遣先はどこ?
地方公務員の派遣先としては、
- 国・都道府県・市区町村(被災地をふくむ)
- 外郭団体
- 民間企業
- 独立行政法人
- 大学
など多岐にわたります。とくに民間企業へは人事交流の意味合いが高く、お互いの職員を交換して仕事をしたりしています。
共同で仕事をする場合など、相手方に1人でも自分側の人間がいれば話が早いですよね?その逆も然りというわけです。互いにwin-winを狙った制度です。
出向する期間
出向する期間は、1年~2年です。3年間は珍しい部類に入りますが、ないこともないという印象です。地方自治体から霞ヶ関への出向は1年、逆に霞ヶ関から地方自治体への出向は少し長い印象です。
待遇(給料や手当)はどうなる?
基本的に、出向・派遣先の労働条件に従うことになります。しかし、給料や休暇日数など決められたものについては、勤める自治体と比べて補填されるケースがほとんどです。
例えば、銀行に出向したとします。
- 現在の給料が月25万円→派遣先の給料が月20万円⇒差額の5万円は補填
- 現在は12月29日から正月休み→派遣先は12月31日から正月休み⇒差の2日は補填されず
- 1日の労働時間は8時間→派遣先の労働時間は7時間⇒派遣先に合わせる
となります。
このように、待遇が悪くなる場合もありますが、逆に待遇が良くなる場合もあるなど、制度によって扱いはまちまちです。
基本的に、出向手当や派遣手当なるものは存在しませんが、例外として被災地への派遣には災害派遣手当がつきます。
出向・派遣は拒否できる?
内部の異動内示を出す際は職員の合意はありませんが、外部組織への出向や派遣には職員の事前合意が必要です。合意がなければ出向や派遣をさせることはできませんので、拒否することは可能です。
出向は単身赴任や引っ越しを伴うケースがほとんですので家族の合意などが必要となる人が多く、猶予期間も設けられています。もし拒否された場合は内部異動者に含める必要がありますから、内部異動の1か月以上前から該当者の調整に入ります。
声がかかったこと自体は「出向者候補リストに入っている=評価されている」こと証明ですが、拒否するということは出世するチャンスを失うことにつながります。
出向から戻ってきた職員は係長や課長へ昇進する人事を行っている自治体も多く、係長や課長への昇任とともに出向するパターンも多くありますので、出向と出世は表裏一体です。
公務員の出向・派遣は、出向先で出向コースと左遷コースが決まる
地方公務員の出向は、出世コースに乗ったことを意味します。出向先から戻ってきたとき、出向先で得たノウハウやコネクションを活かすために出向させるわけです。そこには将来的にそれ相応のポジションに就かせる予定の職員を送り出すという意図が隠されています。
そのため、地方公務員の出向には左遷コースというものは存在しません。しかし、国家公務員の場合は霞ヶ関から出ることで左遷されるコースもあります。
地方公務員の出世の優先度としては、「国・民間企業>都道府県・市区町村>被災地」となります。
国(霞ヶ関)・民間企業への出向
地方公務員の出向で、完全に出世ルートになったことを証明する出向先として、国(霞ヶ関)と民間企業があります。
国へ出向する場合、内務省や国土交通省など基本的に激務部署に異動となります。地方自治体が国と調整したいときの国の窓口はすべてその職員となりますから、出向する職員は優秀でないと役割は務まりません。
また、民間企業も同程度として扱われます。なぜなら、役所とは全く違った能力が求められるためです。国への出向は、まだ役人という顔が残りますし、公務員という組織でみれば一括りにできます。
しかし、民間企業は全く別ものです。誰にも助けを求められない状況で、公務員とは違った考え方で成果を上げなければなりません。適応力が求められることになります。
都道府県・市区町村への出向
市役所から県庁へ、県庁から市役所へ出向するといったケースです。国や民間企業への出向と比べると地方自治体への出向は優先順位が下がります。立場や仕事の規模が変わるだけで、根本的には同じ役割ですから、出世コースに片足を突っ込んでいるようなイメージです。
被災地への派遣
被災地派遣については、出世コースでもあり、出世コースではないという難しい側面があります。被災地派遣は人気がありません。優秀な人から順に派遣同意を求めるわけですが、派遣同意は拒否することが可能です。
手当が貰えるとはいえ危険な地域での仕事になります。基本的に単身赴任となり、結婚していたり子どもがいたりと家族の同意を得ることが難しい側面があります。単身赴任や引っ越しをしなくてもいいから地方公務員になったという人も多いですから。
しかし、被災地からの要請自体を拒否することは地方自治体としての面目がありませんから、誰か1人でもいいから派遣に応じたいのが本音です。そのため、声がかかりやすいのは、独身の若手男性職員です。
このような背景から被災地からすれば即戦力を求めているわけですが、現実問題として災害復旧の経験がない職員が派遣されることは往々にしてあります。
もちろん、被災地派遣へいった職員の評価は上がります。しかし、選ばれて派遣されたといよりも誰もいなくて派遣に合意してくれる人を選んだという側面が強く、優先度は微妙なところです。
出世コースか左遷コースかを判断する方法
出向・派遣されたとき、自分が出世街道にいるのか、それとも左遷かを判断する一番有効な手段は、前任者の今のポストを調べることです。
あなたが一番最初の出向者であれば、間違いなく期待されての異動です。受け入れ先のことを考えれば、優秀な人材を送り込みます。一方、あなたで10代目など多くの出向者がいる場合、その人たちが今どの部署のどの役職についているかで一定の判断が可能です。
出向から戻ってきて出世していたり相応のポストに就いていれば、あなたも同じように評価されています。逆に、出向したのに出世ポストにいない場合は評価さえているとはいえません。その人の出向先での評価にもよりますが、見えない評価よりもポストという見える評価で確かめたほうが有効です。
公務員は出世できるポストにいなければ出世することは不可能です。いくら仕事ができようが出世ポストにいなければ出世競争に勝つことは難しいです。
まとめ
地方公務員が派遣・出向する場合、基本的には出世コースにのったエリートだと考えて問題ありません。出世の優先度としては、「国・民間企業>都道府県・市区町村>被災地」が一般的です。
出向する職員は、地方自治体の代表、いわば顔です。仕事ができない人を送りだすと、その自治体の評判が落ちます。人事担当部局としても避けたいことですし、民間企業との人事交流だからといって仕事ができない人ばかりを送りだすと、来年から交流中止!となり恥をかく可能性もあります。
公務員の出向は出向時点では間違いなく評価されていますし、このまま順調に成果をだし続けることができれば出世できる、というものであって、出向したから100%出世できる!という確約ではありません。
むしろ、その逆。出向した職員が早く出世しているのではなく、出世が早い人ほど出向しているという因果関係です。
近年は外部組織への出向を拒否する職員も多く、働き方が多様化するなかで優先度も落ち、地方自治体も人材不足で外に出せる余裕がなくなってきていることも事実です。