地方公務員が他自治体へ転籍しやすくなる「共通資格制度」の導入にむけ、政府が本格的に検討することが明らかになりました。
共通資格を保持していれば別の自治体への転職が容易になるとすれば、地方公務員が全国どこでも転職できる最強の職業となる可能性があります。
実際、私の周りでも結婚を機に辞めていった職員は男女よも多く、中には最速で係長級に出世している人もいました。多くは別の自治体の公務員試験を受験し合格されていましたが、結婚+子育てを理由にそのまま退職された人もいます。地方公務員の人材を確保する重要な制度となる可能性も期待されます。
本記事では、地方公務員の共通資格制度の概要と考えられるメリット・デメリットについて解説します。
【地方公務員の共通資格制度の概要】早ければ2024年度から運用開始?
地方公務員の共通資格は、現職での一定の能力や実績を証明するもので、共通資格をもっていれば別の自治体への転職時に現職での行政経験が考慮され公務員試験が免除されることが想定されています。
地方公務員の共通資格の導入については、総務省内の研究会で地方公務員の雇用や働き方に関する制度改革について議論され、
- 2022年夏頃 中間報告
- 2023年 制度変更に着手
が最速スケジュールとなります。
>>>詳細「ポスト・コロナ期の地方公務員のあり方に関する研究会(総務省)」
制度変更され翌年度以降に運用が開始されるとなると早ければ2024年度から・・・となりますが、仮に制度化されたとしても2026年度あたりが現実的です。
地方公務員の共通資格のメリットとデメリット
検討段階ですので、本記事での共通資格は「誰でも一定年数在席し成績優秀であれば取得可能、結婚や介護などの制限もなく、転籍先の公務員試験は不要、都道府県⇔市区町村」が可能と定義します。
考えられる共通資格のメリットとデメリットのポイントは「人材確保⇔人材流出」です。
共通資格のメリット「人材確保」
最大のメリットは、優秀な人材を確保しやすくなることです。
「共通資格を持っている=勤務先の自治体で評価されている」となるので、確実な即戦力を採用することができます。採用試験はギャンブルです。公務員試験で成績良好でも入庁後は仕事ができない人も多いですから、リスクを避けられるということは最大のメリットとなります。
現行制度では、別の自治体の公務員試験を一から受験し合格しなければならず、面倒くさいと思って転職しない人も少なくありません。地方公務員の流動性を確保することで地方公務員全体の底上げや人材流出を防ぐことができます。
一方、人材が流出する可能性があるため自治体も職場改善を積極的に図る必要が生じ、職員が働きやすい環境を整備する自治体が増える可能性があり、現役の地方公務員にとってもメリットがあるといえます。
共通資格のデメリット「人材流出」
最大のデメリットは、優秀な人材の流出です。職員が辞めないことを前提に職員を蔑ろにしてきた自治体はピンチです。
公務員から公務員への転職のハードルとして公務員試験があり、優秀な人材も簡単に転職とはいきませんでした。しかし、ハードルがなくなれば、地方から給与の高い都市部へ転職する人や衣食住の環境が良い自治体へ転職する人が増える可能性が高くなります。
採用試験の難易度も違うことから、あえて当初は地方の自治体を受験し、後に都市部の自治体へ転職する地方公務員のロンダリングも起こる可能性があります。とはいえ、都市部だからといって安心はできません。魅力のない自治体は選ばれませんから、人気の自治体に偏ることも考えられます。
また、人事交流で転職が決まる「引き抜き」が行われる可能性があります。地方自治体同士の関係性が悪くなるのは避けたいですが、エース級(人事交流で評価が低い人材は送りだせません)を出したら帰ってこないならどこの自治体も積極的に交流しなくなり、人事交流そのものがなくなる可能性があります。。
まとめ
地方公務員の転籍が容易になれば全国の自治体が優秀な人材を確保(優秀な人材が流出しないように)するため職場改善を図る自治体が増える可能性があります。今まで”どうせ辞めないだろう”とあぐらをかいていた自治体との差が明確になり、公務員が自治体を選ぶことがより鮮明になるかもしれません。
しかしながら、地方公務員という人材の奪い合いにならないような制度設計が求められます。優秀な人材を奪い合うのではなく、優秀な人材を増やす施策が先にあるべきです。自治体を辞めた人が大学で研究したり民間経験を積んで数年後に同じ自治体へ戻って復職できるような「出戻り制度」の創設など、政府に頼らず地方自治の範囲内でできることもありますから。
同じ自治体内で配属先によって共通資格の評価に有利不利がある制度設計は避ける必要があると思いますし、民間企業からの転職採用枠が縮小するのであれば公務員の優遇だとして批判の声もあがるでしょう。
どうなるにせよ「制度はあるけど使えない」なんてことにならないようにしてほしいですね。