公務員の育児休業・休暇取得率は男女で雲泥の差がある。
特に男性公務員は全体の5%程度しか取得していない。これを重く受け止め、2020年度から子供が生まれた男性の国家公務員に1カ月以上の育児休業・休暇の取得を促す制度が開始される。
しかし、ことはそう単純ではない。
なぜなら、出世したい、昇進したいと考えている男性公務員ほど取得できないようになっている構造だからだ。
国家・地方公務員の男女別育児休業・休暇取得率
〇2018年度の男性国家公務員(一般職)の育児休業の取得率
- 男性 12.4%
- 女性 99・5%
〇平成29年度の地方公務員の育児休業取得率
- 男性 4・4%(平成30年度は5.6%)
- 女性 99・3%
〇平成29年度の地方公共団体別の男性育児休業取得率
- 都道府県 3.1%
- 市区町村 5.5%
- 指定都市 7.0%
これらはあくまで平均値です。
都道府県別にみると、東京都が22.2%でダントツのトップ。特別区を除き、それ以外はどこも5%程度です。
また、政令指定都市別にみると、千葉市は28.7%(平成30年度は65.7%)でダントツのトップ。
一方、関西圏の主要3都市である大阪市3.5%、京都市4.0%、神戸市2.5%、と低水準です。これでもまだマシなほうで、1%未満の自治体も多い結果となっています。
2018年度の民間企業の男性の取得率は6.16%ですから、取得率だけで言えば、
育児休業・休暇取得率 国家公務員>>>民間企業>地方公務員
という図式になります。
とはいえ、国家公務員の男性の取得状況を期間ごとにみると、
- 1カ月以内が72.1%
- 1カ月超3カ月以内が13.5%
- 3カ月超半年以内が6.1%な
と、ほとんどの人が短期取得している状況にあります。
2020年度から始まる男性国家公務員の育児休業・休暇制度の概要
まず、育児休業・休暇を取得したいと思った男性職員の意向に基づき、その上司が取得計画を作る。あらかじめ業務の分担を見直すことで育休中の職場の体制を事前に整える。
取得時期は原則、出産から1年以内とし、1か月以上休めるようにする。そのため、
- 育児休業
- 特別休暇(出産時に最長7日間取れる「男の産休」)
- 年次休暇
を合わせ、出産から8週間までの間にまとめて取得することを推奨している。
年次有給休暇をいれるのはどうなの?とは思うが、年次有給休暇の全消化は基本的に無理なので問題ないかもしれない。
取得状況が人事評価に反映
男性の育児休業・休暇取得の実効性を確保するため、事務次官や局長ら幹部や管理職の取り組みを人事評価に反映するとしている。
ポイントは、あくまで取得した本人の評価ではなく、その上司が評価されるという点だ。
職員に取得する意向がない場合などは人事担当者が本人や上司に確かめるとしているが、効果には疑問符だ。
地方公務員にも同様の措置が講じられることは確実
理由は単純。
男性地方公務員の育休取得が政府目標(育休取得率「2020年に13%」)を下回っている状況にあるからだ。
先に述べたように、男性地方公務員の取得率は著しく低い状況にある。
男性公務員は育児休業・休暇を取得すると出世できない?
そもそも男性が育児休業・休暇を取得する割合が低いのはなぜだろうか?
育児が嫌という層もいくらかはいるだろうが、結局、「育児休業・休暇を取得すると出世できない」という背景が原因だ。
女性は上述の通り、育休をとることに何ら批判されない。
しかし、育休をとって子育てをしている女性が公務員の世界で出世しているだろか。
例えば、子供が3人いて、すべて育休をとって、今は部長級という女性職員はどれほどいるだろう。
これは大阪市の事例だが、ほんの数年前まで係長試験への昇任選考の年数に育休取得年数を加算しないとしてきました。
前例踏襲で規定を改定していなかったとの説明でしたが、時代錯誤も甚だしいとして現在はそんなことはありません。
実は大阪市だけではなく、これは全国的にあったことなんです。
つまり、ひと昔前は育休を取得すると昇進が遅れるという事実はあったのです。
また、公務員の世界では、そう簡単に人員を補給してくれません。
人事異動は年1回が基本です。例えば、同僚が病気で休業したとします。基本的には「耐えろ」です。今の人員で乗り切るしかありません。
期間が長い場合は緊急でアルバイトの補充してくれます。しかし、それはパフォーマンス。
だって、バリバリの職員のあとに、パソコンの文字も打てないようなアルバイトを入れて、仕事が減ると思いますか?
そんな世界です。公務員の世界では、「休む=誰かがカバーしてくれる」ではありません。
休んだ人間が出勤してくるまで誰も仕事はしません。カバーなんてしていたら一生、家に帰れないですから。今はどの自治体も人件費削減の観点から職員を削減しています。しかし、苦情や要望は増える一方ですから、一人あたりの業務量は増加していきます。
そのような状況下において、育休を取得した場合、どうなるでしょうか。
特に、人事評価です。
もちろん、育休取得の有無でその人の評価が変わることはあってはなりません。
しかし、評価をするのは、男が育休なんてありえないという思考で出世してきていた人たちです。
能力が同じで、付き合いも同じ、違うのは育休取得の有無だけとなった場合、間違いなく取得していない人が先に昇進します。
なぜなら、育休を取得した人のアナを埋めた人が必ずいるからです。
もし、あなたが評価者なら、「育休を取得した人」と「育児を取得した人の仕事をすべて引き受けて残業&残業で頑張った人」の評価を冷静につけれますか。
なので、誰よりも、特に同期よりも早く出世したいと思っている人は、簡単に育休なんて取得できないのです。
そんなの関係ねぇと育休を取得できる公務員に出会ったことはありませんし、取得している人がその年や翌年に昇進したなんて話も聞いたことがありません。
つまり、男性が育児休業・休暇を取得した場合、人事評価は確実に下がります。厳密には維持されます。とはいえ、公務員ですから、給料やボーナスの減額はありません。そこは唯一の救いです。
しかし、昇任しないと給料はあまり上がりません。どれだけ先に出世するかが生涯年収を決定付けます。
育児休業・休暇は権利です。取得しても何ら問題ないですし、何の言われ様もありません。
育児休業・休暇が休みだとも思いません。場合によっては仕事なんてかすむほど重労働かもしれません。
男性の育児休業・休暇取得が義務化され、幹部の評価にも考慮されるのであれば、確実に取得率は上昇するでしょう。
しかし、早く出世できるかは別の話です。
正直、政府のいう義務化には賛成ですが、その背景にある現実に向き合うべきです。
育児休業・休暇を取得した人の仕事を、人員補充もせず、残された正規職員がカバーしなければいけない現状を変えることの方が先決だと思います。