国家・地方公務員の接待は法律・規則・条例で禁止されています。
接待をすることも接待を受けること自体が罰則対象となります。
当然、接待をした側も罰則があります。
接待禁止については、新規採用職員研修から叩きこまれますし、最初の配属先でも先輩方は徹底されていました。
それもあってか、私も当たり前のように「公務員は接待を受ければ懲戒処分」という倫理観で働いています。
しかし、公務員が接待を受けて懲戒処分される事例は後を絶ちません。
そこには、組織的な問題点があると感じます。
なぜ、公務員への接待は禁止されているのか
公務員は、公平であり、中立である必要があります。
いち個人が有利になるように制度を変えることはあってはなりません。
接待を受けた利害関係者に便宜供与することは不公平の典型であり、禁止されています。
当然、接待をした側にも罰則があります。
国家公務員は法律によって接待の基準が定められている
国家公務員は、
- 国家公務員倫理法
- 国家公務員倫理規則
によって、接待などの利益供与について規定されています。
ただし、国家公務員に対する接待は、すべてアウトなわけではありません(「原則禁止だが、例外もある」という趣旨です)。
公務員が利害関係者からお金(いわゆる賄賂)を貰ったり、借りることに対しては、一般的にアウトだとわかってもらえると思います。
ただ、なかには、え??こんなこともダメなの?
という倫理規定違反もありますので、主な接待基準をピックアップして解説します。
ポイントは、以下の3点
- 接待は禁止されているが、接待とはみなさない場合がある
- 一定レベルを超える接待は事前に報告義務がある
- 相手が誰であろうと一般的に考えてあり得ないようなものをもらってはいけない
詳細は以下の資料が公表されていますので、ご確認ください。
〇「国家公務員の倫理 一般職員用自習研修教材(平成29年改訂版)(国家公務員倫理審査会)」
割り勘はアウト?セーフ?
割り勘であれば、あくまで接待ではなく利益を受けていないと判断されます。
ただし、自分の飲食代が1万円以上(※本省の課長級以上は5,000円以上、後述)の場合は、事前に倫理官への報告義務があります。
なお、多くの出席者がいるパーティーなどでは報告義務はありません。
利害関係者以外ならセーフ?
利害関係者じゃなければ、すべてがOKではありません。
「社会通念上相当と認められる程度を超えて利益の供与を受けてはならない」と規定されているからです。
車の送迎はアウト?
職務で来た公務員を社用車などにより送迎する場合、公共交通機関を使用しても現地へ行けないような交通状況であれば問題ありません。
それ以外はアウトになります。
冠婚葬祭による香典やご祝儀はアウト?セーフ?
基本的に倫理規定の例外であり、セーフです。
結婚式など多くの参列者がいるものに告義務はありません。
地方公務員は条例や規則によって接待の基準が定められている
国家公務員は法律・規則で規定しているのに対し、地方公務員は条例・規則で規定しています。
とはいえ、国に準じて条例をつくりますから、内容は同じです。
違反したときの懲戒処分基準は人事院規則に規定
「人事院規則22-1(倫理法又は同法に基づく命令に違反した場合の懲戒処分の基準)」で規定されています。
倫理行動基準 第3条(禁止行為)
一 金銭、物品又は不動産の贈与(せん別、祝儀、香典など)→免職、停職、減給又は戒告
二 金銭の貸付けを受けること。 →減給又は戒告
三 無償で物品又は不動産の貸付けを受けること。→停職、減給又は戒告
四 無償で役務の提供を受けること。→免職、停職、減給又は戒告
五 未公開株式を譲り受けること。→停職又は減給
六 供応接待を受けること。→減給又は戒告
七 遊技又はゴルフをすること。→減給又は戒告
八 公務ではない旅行 →停職、減給又は戒告
九 代理を立てて受け取ること。→免職、停職、減給又は戒告
内容次第で懲戒免職処分(いわゆるクビ)となっていますから、現役の公務員も再確認が必要です。
過去の懲戒処分事例からみる組織的な問題点
令和3年2月24日、菅義偉首相の長男が勤務する衛星放送関連の企業が、総務省の幹部ら11人以上を接待(のべ30回以上)として、官僚が処分されています。
対象者と処分内容は「国家公務員倫理規程違反に関する関係者の処分等について」にて公表されています。
最大で減給処分となっているのは、上記の人事院規則に沿ってのことでしょう。
「 倫理行動基準 第3条(禁止行為) 六 供応接待を受けること。→減給又は戒告 」
利害関係者かの議論はさておき、割り勘にし報告すれば問題なかったケースです。
(参考)本省課長級以上(行政職(一)5級以上の職員)は、5,000円以上の贈与を受けると、贈与報告書を提出しなければならない。
そもそも、国家公務員倫理法ができた契機も官僚の汚職事件が原因です。
〇1998年 大蔵省(現:財務省)接待汚職事件(通称:ノーパンしゃぶしゃぶ事件)
大蔵省、特に金融関係の職員が100万円以上の接待を受け、検査日程などをもらし、112人が処分を受けた事件。
贈収賄という罪により、官僚7人が逮捕・起訴され、執行猶予付きの有罪判決が確定した。
役職があがればあがるほどワキがあまくなる
接待での報告義務があるのは本省課長級(行政職(一)5級以上の職員)以上であり、行政職(一)4級以下の職員には、報告義務がありません。
裏を返せば、権限もない下っ端の職員に接待をしても意味がなく、仮に金品を受け取ったとしても、公共の福祉や中立性・公平性に影響しないと解釈できます。
もっといえば、接待自体は容認しているともとれます。
つまるところ、公務員に対する接待は、接待をする側にもリスクがありますから、基本的には権力をもっている人にしか起きない問題です。
しかし、その接待を受けるとわかっているはずの人達が平気でルールを破る状況に危機感を覚えます。
確かに、官僚が首相の息子から誘いを受けたときに断りにくいという関係性にあることは社会人であれば誰もが納得できることでしょう。
接待自体が不必要だと言うつもりはありません。政策を作る重要なポストの人であれば必要なときもあるでしょう。
本件の問題は、おごってもらったから違反なのであって、自腹かつ報告をしていれば何も問題はなかったわけです。
にもかかわらず、どちらも組織的にやっていなかったというのは倫理観の欠如だといわれても仕方がありません。
民間企業には接待費が経費で使えますが、役所に接待費はありません。
ただし、本省の課長級以上であれば、管理職手当があるわけです。
なぜ、そこまでセコくなるのか。
私たち若手職員からすれば、役所に入ってからずっと「接待は絶対にダメ!」と言われているわけです。
私も地元の方とお会いする機会もありますが、お茶すら貰ってませんよ。
お茶ぐらいいいんじゃないの?と思われる人も多いかもしれませんが、徹底しています。
上のしわ寄せがは下が処理
結局、このような問題が起きたときに疲弊するのは若手職員や役職のない職員です。
公務員はこれだから~という全体的な話から、組織の政策批判や関係のない職員への誹謗中傷など、苦情を受けるのは最前線の職員です。
電話番号が非公表でコーヒーを飲んでいる管理職ではありません。
これでは、いったいどっちが管理職なのでしょうか。
幹部が慌てて公務員の倫理規定について研修をすることになるのも目に見えてますし、若い職員が資料を作成させられるのも目に見えています(どんな顔をして管理職が教えるのかが気になりますが)。
真面目にやっている大多数の職員が損をするだけの違反行為には悲しくなります。