公務員が副業で処分される事例は後を絶たちません。
その中でも、報道されたような有名な事例をメインにご紹介します。
これから副業をしようと考えている人だけではなく、既に副業をしている人も「副業がばれたらどうなるのか」を知っておきましょう。
懲戒処分とは
懲戒処分と言われてもピンとこないかもしれません。
懲戒処分とは、行政処分のことで、公務員の服務上の義務違反に対しては、免職・停職・減給・戒告の4種があります。
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免職:職員の身分を剥奪し、公務員関係から排除するもの
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停職:1日以上1年以下の期間、職員としての身分を保有させたまま職務に従事させないもの(その間の給与は不支給)
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減給:1年以下の期間、基本給の月額の5分の1以下に相当する額を給与から減額するもの
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戒告:その責任を確認し、及びその将来を戒めるもの
処分の度合いは、
重い← 免職>停職>減給>戒告 →軽い
となります。
(戒告の下には、訓告、厳重注意、口頭注意と軽くなっていきますが、処分としては戒告までをいいます。戒告は注意の度合いで、戒告は厳しく怒られる、訓告は怒られる、ぐらいのレベルだと考えて問題ありません)
(参考)民間企業は別です
重い← 懲戒解雇>諭旨(ゆし)解雇>降格>出勤停止>減給>譴責(けんせき)>戒告 →軽い
よく、”公務員はクビにされないからいいよな~”と批判されることもありますが、そんなことはありません。
公務員のクビ=懲戒免職処分をさすためです。
つまり、公務員では懲戒免職処分=民間企業では懲戒解雇という、どちらも「クビ」であることには変わりがありません。
懲戒処分の決定方法
懲戒処分はその人の人生を大きく左右しますから、さまざな理由から判断されます
人事院「懲戒処分の指針について」
人事院の「懲戒処分の指針について」によると、
副業・兼業の許可を得る手続きをせずに、副業がばれた場合の処分としては、減給又は戒告と定められています。
この規定は、許可を得ていれば問題なかったにもかかわらず無許可で行っていた場合、最大で減給ですよ、という規定です。
この処分が軽いのは、許可を得ることができた副業に限定しているためです。
しかし、現実はそうではありません。
各自治体の定める「懲戒処分の指針」
そもそも許可を得ようにも許可が下りない副業がほとんどですから、みんな無許可で副業をするんですよね。バカ正直に副業したいです!といっても、人事部に却下されて終わりですし、変に目を付けられますから
このような場合に対処するため、多くの自治体には「懲戒処分の指針」という規定が定められいます。
この指針には、A行為をした場合は懲戒免職、B行為をした場合は最大でも停職処分、といった規定が定められています。
注意点は、自治体によって基準が違うことです。
飲酒運転が問題になったとき、懲戒免職処分とするか停職処分とするか、判断がわかれました。今となっては懲戒免職処分としている自治体がほとんどでしょう
各自治体が処分した過去の事例
人を見て判断することはできませんから、必ず過去の処分事例をもとに判断します。
気に食わないから免職処分とはできませんよね?必ず、法的な根拠が必要です
(参考)公務員の懲戒処分事例については、副業に限らず必ず自治体のHPに公表されています。
懲戒処分されるとどうなるのか
さて、事例にいく前に、そもそも懲戒処分にはどういった影響があるのかを理解しておく必要があります。
懲戒免職処分
クビになっても再就職すればいいじゃないか!はあまい考えです。懲戒免職処分は公務員の身分をはく奪するだけではなく、公務員関係からも排除するとあります。つまり、公務員として再び転職することは不可能です。
もちろん、法的には一定の期間を過ぎれば、公職に再就職することは可能です。
しかし、公務員のネットワークは広いですし、このご時世ですから、実名公表されていればネットで検索すれば一発です。
そういった意味では、同じクビでも民間の解雇よりも懲戒免職処分の方が少し重いともいえるでしょう。
逆に言えば、それほどまでに重たい処分ですので、自治体としても処分には慎重です。
当然のことながら、退職金は1円たりとも貰えません。退職金をあてにして住宅ローンの返済も考えている職員も多いでしょうから、定年間近の職員が懲戒免職処分とされると悲惨な人生をその後に送ることになります
停職
停職は公務員をクビになるわけではありません。
停職期間の給与は支給されません。もちろん、ボーナス(期末手当+勤勉手当)もです。また、年に一度の昇給をおこなわれません。
免職処分と違って、復帰できますし、退職金も貰えます。
しかし、基本的に停職処分になると、出世への道は閉ざされたと思ってください。
降給することはあっても、昇任することはまずありません。
問題となった人の地位を上げるほど役所は優しくありませんし、世間の目がそれを許しません。
減給
減給は給与カットみたいなものです。
一時的には下がりますが、もとに戻ります。年に一度の昇給はおこなわれません。
出世への道は完全に閉ざされたわけではありませんが、かなり険しい道のりになります。
戒告
口頭注意みたいなものです。
管理職がよく受けていますが、部下が何かしでかしたときに管理不行き届きだとして注意を受けたりします。
これは、ただの注意なので、昇給や昇任には関係ありません。
給料(生涯年収)が下がる
一番、辛いことは給料です。
公務員の良いところは、給料が年々上がっていくことです(50歳を超えると微々たるものですし、下がっても微々たるものです)
しかし、減給以上の処分を受けると昇給しません(または昇給額が減ります)。
これは1年間に限ったことではありません。公務員の場合は、1年昇給しないだけで、今後の役所人生が終わるまで生涯年収が減ります。
単純に計算すると、30歳で1万円の昇給だとすれば、1万円×(12月+ボーナス4.5月)×30年=約500万円もの差がでます。
公務員の世界は銀行と同じ、一度でもバツがつけば終わる世界です。
懲戒処分理由にもよる
また、忘れてはいけないのが、懲戒処分の理由です。
理由によっては話が全く違ってきますね。
例えば、痴漢によって逮捕されて不起訴となった職員が免職を免れ停職処分となったとします。
経験則上、その職員は自主退職します。(ちなみに、自己都合であれば満額ではありませんが退職金は貰えます)
痴漢をしておいて、停職期間が終わったからといって日常業務に戻れるほど世間はあまくありません。
理由によっては、停職でも減給でも、免職処分と同等なんです。
これは、副業にも言えます。
副業をして減給処分された人の昇進はまずありません。理由が理由ですからね。
ただ、部下をかばって結果的に違法なことをしてしまっていたといった情状酌量の余地がある場合はどうでしょうか?
この場合、昇進できないというレベルまではいかないはずです。
懲戒処分事例
では、懲戒免職処分と減給処分の事例を有名なものをピックアップして順に紹介します。(戒告はただの注意みたいなもので、多すぎて紹介できません・・・)
ここで紹介するのは「副業」にいついてのみです。
公務員の処分は年間で約4000件。そのうち免職処分となるのは1割の400人ほどです。
懲戒免職処分事例①北海道札幌市の職員が複数の飲食店でアルバイトをしていた
- 処分時期:2017年
- 処分内容:約2年間にわたり、札幌市内の12の飲食店などで深夜にアルバイトをし、約200万円の収入を得ていた
- 副業理由:離婚した家族への養育費の支払い、消費者金融に借りた借金の返済
この事例では、勤務時間中に居眠り、勝手に離席するなどの行為を繰り返したため怪しまれたため発覚しました。
人前に出てしまったがために処分された典型的な事例です。人前にでるアルバイトは、証拠が確実に残り、現行犯ですから問答無用で処分されます(自治体としてもかばいきれませんよね)
懲戒免職処分事例②大阪府高槻市の消防職員が他事業を経営していた
- 処分時期:1999年※懲戒免職処分の取り消しを求めて裁判で争われた結果、棄却され確定
- 処分内容:テレフォンクラブやダイヤルQ2事業(電話を利用して異性との会話の機会を提供する事業)を経営
- 処分理由:事業が犯罪の温床となり、営利企業等への従事制限や信用失墜行為にあたるとした
事業として経営していた事例ですが、これも一発アウトです。現行犯ですから
懲戒免職処分⇒停職処分事例③兵庫県宝塚市の消防職員が他事業を経営
この消防職員は、過去に何度か兼業を疑われ指導されています。
宝塚市は、副業で農産物を販売する団体や水道工事会社を経営、身分を偽り既婚であることを隠して女性と交際し訴訟されたことなど女性問題を含め信用失墜行為と判断し懲戒免職処分としました。
ところが、この消防職員が処分を不服として宝塚市を訴えます
いやいや、副業をしておいて何様?と思われるかもしれませんが、懲戒免職処分は退職金も貰えず今度、公務にもつけなくなる最も重たい処分ですから、そりゃ、必死にもなります。
その結果、神戸地裁の判決は「免職処分の取消」でした。
これは、相当、珍しい事例です。懲戒免職処分から停職処分へと下がったんですから
取り消しとされた理由は3つ
- 宝塚市の設ける「宝塚市懲戒処分の指針」に則していない
- 過去の類似事例と見比べると不適当
- 女性問題は民事上のトラブルである(既に当事者間では解決済)
実は、宝塚市では過去に約7000万円の副業収入を得ていたとして6か月の停職処分とした事例があります。
本件は、副業で多額の利益を上げていないことから、前例と比較して処分としては重過ぎると判断されました。
懲戒免職処分④海上自衛隊員が風俗店を経営
2020年3月10日、海上自衛隊は、自衛隊法で禁じられている兼業と情報漏えいをしたとして、護衛艦隊司令部付の森田哲哉1等海佐(55)を同日付で懲戒免職処分にしました(海自警務隊が、自衛隊法と売春防止法に違反した疑いで捜査している)。
2010年ごろから10年間、女性向けの無店舗型風俗店(デリバリーヘルス)を実質的に経営し、年100万~150万円程度の収入を得ていた。
また、2004年ごろからはインターネット上で性的な技法の解説書を販売し、10年間で約150万円の収入を得ていた。
本人は、経済的な理由で副収入を得たかったと話しているそう
さらに、2014年10月ごろ、当時艦長だった練習艦「かしま」の出入港情報を、携帯電話のメールで顧客の女性に漏らしていた。(これがなければ、実名、年齢公表のうえ懲戒免職処分とはならなかったかもしれません)
完全なる信用失墜行為、つまり、自衛隊の威信を傷つける行為ですから、併せて懲戒免職処分となった可能性が非常に高いです。
停職処分①岐阜県池田町の職員が接客業のアルバイト
接客業のアルバイトで約300万円の副業収入を得ていたとして、6か月の停職処分を受けました。
この職員は、停職中に停職前にいった旅行の写真などをフェイスブックに投稿をし、それを見た住民からクレームが寄せられました。町も注意したにもかかわらずやめず、停職から一転、免職処分としました。
この職員も同様、処分を不服として揖斐広域連合公平委員会に訴えた結果、町が弁明の機会を与えておらず手続上に問題があることなどから処分は重過ぎるとし、免職処分は取り消され、結果として停職処分となっています。
なんとも図々しいと思われるかもしれませんが、免職と停職は雲泥の差がありますから、往生際も悪くなるのは当然です。
停職処分②兵庫県宝塚市の管財課の男性副課長(51)職員が不動産収入を得ていた
この職員は、勤務時間中に公務用のパソコンを使ってメールでの商談なども行っていたため、上司から怪しまれ、発覚。
私用メールは計1万5千通。市は送受信に要した時間を算出、勤務していなかったとみなし約42万円を請求しました。
妻が代表取締役を務める不動産会社の取締役に就き、神戸や大阪など10カ所に342戸の賃貸物件を所有。太陽光発電と不動産の会社を自ら設立し、不動産投資で得た副業収入はなんと7000万円
結果として、6か月の停職処分となりました
勤務時間中に副業をしても停職なんですから、何とも甘い処分なような気がしますが、アルバイトとは違い、投資は公務員に認められた副業のひとつです。
不動産で収入を得ることが違法であれば、公務員は家を売ることができませんから、常識の範囲内であれば不動産投資は認められています。
副課長は「マンション経営は投資で、副業の認識はなかった」と言い訳をしていましたが、副業収入で十分に暮らしていけることもあったのかこの騒動を受け依願退職しています。
停職処分③奈良県奈良市の職員が病気で休暇中に妻が経営するプールでアルバイト
この職員は、平成27年に病気を理由に休暇している期間中に、妻が経営するプールで46日間もフルタイムでアルバイトをしていたことが発覚し、6か月の停職処分とされました。
この事例は報道番組でも報道されました。
職員は「妻も病気だったため、手伝いたかった。」ということのようですが、テレビ番組の取材では、病気である妻が元気で営業をしていたとこが記録されています。
また、この職員は「自身が病気」であることを理由に休業していたわけですが、この職員自身も元気で営業をしていたとこが記録されています。
自分が病気も嘘、妻が病気も嘘、という事実が判明。
結果としては6か月の停職処分となりましてが、個人的には、あのテレビで流れてくる職員とその妻の横柄な態度(記者に突っ込まれたときの何が問題なのか言ってみ!!!という態度)に衝撃を受けました。
こ年だけでなく、過去にも同様に何度も病気を理由に休暇をとっているみたいですから、常習犯だったことは間違いありません
処分が軽すぎると思いますが、公務員ならだれでも納得してしまう「環境部局の労務職員」という立場が免職処分までいけなかった理由でしょうか
停職処分④労働基準監督署の職員が金券ショップビジネスをしていた
報道された当時は、金券ショップを使った「錬金術」としても注目を集めましたので、ご存知の方も多いでしょう
- 副業期間:1999年4月から2011年4月
- 副業内容:週3、4回程度、1日約50万円分の旅行券や商品券を金券ショップで割安に購入。その券を使って新幹線の切符や航空券を手に入れたあと、払い戻して差額を得ていた。
- 副業収入:12年間で約1500万円
- 処分理由:兼業に当たるとして処分、得た利益を税務署に未申告(要は脱税)
- 処分:1か月の停職処分
この職員は、発覚後に対象となる過去5年分の税金を納めましたが、法的には5年が遡る限界です。
停職処分⑤大阪府大阪市の職員がキャバクラの送迎アルバイト
「夜に副業している」との情報が市に寄せられ、本人に確認したところ否定。しかし、再度、店名などの詳細情報が寄せられたため、市職員が店の近くで張り込み、アルバイトの現場を確認され発覚したものです
- 副業期間:2011年2月から2014年5月までの間
- 頻度:月に20日程度
- 処分:6か月の停職処分
現行犯なので、言い逃れできませんね。
停職処分⑥福岡県の運転手職員が声優として活動
外部からの指摘で発覚したケースです。福岡県に採用される前から、フリーの声優として活動しており、採用後も、無許可で声優の副業を続けていた。
- 副業期間:約22年間
- 処分内容:無許可で声優として副収入を得ていた上、収入に伴う納税を怠った
- 副業収入:5年間で約1400万円
- 処分:停職4カ月
この職員は、福岡市内のタレント事務所と専属契約を結んでいました。法的には遡ることができる5年で1400万円ですから、22年間だと考えると約6000万円・・・
懲戒処分に加えて、住民税や所得税の追加課税分として、約147万円を納付したそうですが、痛くも痒くもない金額でしょうね
停職処分⑦埼玉県さいたま市の職員が農業をしていた
さいたま市の男性職員(56歳)が、無許可で水田を耕作して収入を得ていたため、停職処分となっています。
この職員は相続した埼玉県内の水田(2.6ヘクタール)でコメの生産をしており、1988年頃からはじめ、2001年頃からは、知人などに依頼された耕作放棄地でもコメを作るようになり、7ヘクタールの水田で農業を営んでいました。
このことから、地方公務員法に基づき「停職6か月の懲戒処分」を受けています。
職員は「赤字であれば許可を得なくていいと思った。耕作放棄地をなんとかしたかった。農機具の購入費などで経費がかさんでおり、収支は毎年赤字だった」と主張しましたが、市は認めませんでした。
なお、さいたま市の処分指針では、無許可事業従事は、減給か戒告が標準とされていますが、結果としては停職処分となっています。
減給処分①山口県下関市の警察官(女性巡査)が派遣型風俗店でアルバイト
山口県警へ情報提供があり発覚。
H30年9月から11月までの2か月で約8万円の報酬を受け取ったとして、減給10分の1、1か月の懲戒処分となっています
減給処分②山梨県甲府市の管理職の職員が新聞配達のアルバイト
税務署からの所得の修正報告を求められ、職場に報告し発覚したもので、1993年9月から20年間にわたり新聞配達のアルバイトをしていました。
結果として、減給10分の1(6か月)の懲戒処分を受けています
減給処分③宮城県仙台市の教員が不動産賃貸業
2020年3月26日に懲戒処分された事例です。
宮城県仙台市の市立高校に勤める50代の女性教諭は、市内で一戸建て住宅3棟、アパート6棟などを購入して賃貸に出し、平成10年から30年に、計約1億9500万円の賃料を得ていました。
不動産賃貸業を営んでいたことが副業とみなされ、減給10分の1(2カ月)の懲戒処分となっています。
地方公務員は、親からの相続など特別な事情がある場合を除き、不動産で一定以上の賃料収入を得ることは認められていないません。
これが相続であれば、許可を得ていなかった点が問題となりますが、相続でなければこの教員は、
今後、不動産賃貸業と公務員のどちらかを選ばないといけません。
そのほか
- 賃貸マンション経営を18年間続けていた兵庫県職員 ⇒ 戒告処分
- モデル活動をしていた法務省東京保護観察所職員 ⇒ 減給3か月(俸給月額の100分の10)
- 民泊を営業していた名古屋市交通局バス運転手 ⇒ 減給10分の1(6日間)
- ピザの宅配業務をしていた群馬県高崎市等広域消防局の消防士 ⇒ 停職3か月
- マンションや駐車場を賃貸していた佐賀広域消防局の消防副士長 ⇒ 減給10分の1
あげればキリがありません。。。
まとめ
公務員が副業をしてばれたとしても、「懲戒免職処分」となるのは相当悪質な場合です。
信用失墜行為に当たらない場合は、まず免職処分にはなりません。
副業をやるならやるで、ばれたときには依願退職をして副業を本業として生活するぐらいの覚悟をもって副業をすべきです。
中途半端が一番良くないです。少しのお金のために今後の公務員人生を棒に振るのは危険ですから。
各自治体によってその処分の度合いは異なりますので、自治体HPに公表されている懲戒処分実績を調べてみるのもいいかもしれませんね。
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