公務員は家族よりも業務を優先しなければいけない職業です。公務員は自然災害が発生すれば、プライベートに関係なく災害対応に従事しなくてはいけません。
梅雨の6月から台風シーズンの7月~10月は、地方公務員として働いていて心が休まらない時期になります。
なぜなら、雨によって自然災害が発生した場合、日常業務にあわせて災害業務が重なるからです。発生しなくても、職員は災害に備えて待機しなければなりません。
災害となれば休暇中でも出勤する必要がありますので、結果、長期休暇はとれず旅行にもいけません。危機管理部門では避難指示などの判断が求められるため責任も重大です。
私も水防関係部局で10年以上勤務していますが、未だに嫌です。本当に憂鬱になります。24時間365日ずっと頭の片隅で緊急対応を考えないといけないことは本当に割に会いません。本記事では、災害対応に10年以上携わってきた私が「集中豪雨や台風」に限定した災害対応の現状を解説します。
公務員は大雨、台風、地震など自然災害では時間外でも休暇中でも家族を犠牲にして出務しなければなりません。
地震と違って集中豪雨や台風にはくることが分かっていますから、あらかじめ準備することができます。対応に不備があった場合は役所の責任です。
気象庁が防災気象情報(特別警報、警報、注意報、早期注意報)を段階別で発信し「気象庁|気象警報・注意報 (jma.go.jp)」、その情報も踏まえながら各自治体が避難指示等を判断しています。参集基準は自治体によって異なります。
公務員の災害対応は警報発令が主ですが、警報がでることの見通しがある段階では災害待機がありますので、注意報の段階で出勤することもあります。災害レベルによって待機時間も出務人数も全然違います。
そのため、うかつに旅行の予定は組めません。長期休暇で旅行に行っていれば、旅先から帰ってくる必要があるからです。
事前に同僚に頼んでおいて代わってもらう手段はありますが、結構シビアです。なぜなら、災害対応では自分の順番が回ってくるとは限りませんから、自分が代わった人が異動してしまえば関係なくなりますし、誰も代わりたがりません。
そもそもですが、今、公務員は人員不足です。災害復旧する技術職員がいない自治体もあるほどです。仮に2交代制だとすれば、代わってあげた場合は1日中働くことになります。
1日だけで終わればいいですが、土日に台風がくると2日連続もあります(何度も経験があります)。そんなときにのんきに旅行に行っていようものなら、評価は一気に最底辺まで落ちます。本人がそれで良いなら良いのですが、めちゃくちゃ働きにくくなります。
災害の出勤は拒否できないので出勤できない言い訳も許されない
災害対応は絶対です。災害待機のローテーションで自分の番がきたら絶対に出勤しなければなりません。出勤できないは言い訳にしかなりません。
公共交通機関でこれないならタクシー自腹でこいも当たり前の世界です。台風がくること、電車やバスが動かないことが予期できるのであれば、職場に泊まるという選択肢もあるわけですから、不必要な交通費は支給しないというスタンスです。
寝ていて気がつかなかったは言い訳になりません。いつでも携帯をとれるように寝ます。それほどシビアな対応をしています。
避難所運営は市町村の役割
河川が氾濫して消防隊員や自衛隊員が救助活動を行っているイメージをもつ人も多いのではないでしょうか。
実は、避難所の開設は市町村がやってます。体育館や学校などに開設されることも多いですが、当然、避難所に避難者が1人でもいれば対応にあたらなくてなりません。その人が帰るまでは交代でずっと対応にあたる必要があります。
災害対応は所属部署と家庭環境によってしんどさは全然違う
災害対応は部署毎でレベル感が異なります。危機管理部局は災害対応の指揮命令系統のトップですから当然ですが、道路や河川砂防、港湾を管理する水防関係部局は他の部署よりも重点的に対応にあたります。他の部署は2人でもよくても水防関係部局は10人といった具合です。
特に技術職の土木職は大変です。暴風雨の中でパトロールや作業をしなくてはいけませんからね。
災害対応は全員平等という部署もありますが、子供がいる職員、女性職員は免除される傾向にあります。
子育てや介護中の職員は災害待機のローテーションから外され、女性は現場に出ませんし、深夜の泊まるような業務は免除されます。
部署の判断によりますが、従事メンバーの人数が少ないと自分の順番がわまってくるのが早いですから、不公平感は否めないですがそれも時代です。
当然ですが、管理職の出務は必須です。
実は災害対応は災害が発生した後の方が大変!特別休暇もなく休めません。
災害対応の後ほど休めないという現実があります。特別休暇なんてものは存在しないので、体力・精神力の回復のために有給休暇をとって寝たいところですが、そう単純ではありません。
人が外に出れば通報が鳴りやまないからです。基本的にすべての苦情は役所にきます。全員が全員休んでしまうと仕事がまわりません。
災害対応といっても、通常業務は待ってくれません。両立しながら仕事を進める必要があります。全国的な災害でもない限り、国や他の自治体からすれば直接的には関係のない話ですからね。あの自治体は今災害対応で大変だから照会ものの回答は免除してあげよう!とはなりません。
土木や農業部門は被災把握の現地調査をして災害復旧工事の手続きをします。被災状況の記録はもちろんのこと申請期限が決まっているので時間との勝負です。
災害対応の責任は重くプレッシャーは相当なもの
危機管理部局は避難指示等を発令します。
避難指示を出して何も被害がなくても非難させたことを批判され、非難指示を出さないで被害があったら糾弾され、どちらに転ぼうがアウトという判断を下す必要があります。避難行動中が一番危ないとされていますから、出すタイミングも非常に重要です。
例えば、2018年8月の台風20号の災害対応では、和歌山県田辺市の防災体制の指揮をとった危機管理局長(当時57歳)が災害対応中に亡くなり、地方公務員災害補償基金が「公務上の災害」と認定しています。
田辺市の資料によると、このときの気象情報は23日朝の暴風警報をかわきりに、大雨警報、洪水警報、土砂災害警戒情報とめまぐるしく変わり、夜までにこれらの発表は計20回にのぼった。避難情報も避難準備・高齢者等避難開始から始まり、夜になって避難勧告へ、さらには一部地域への避難指示(緊急)へと警戒の度をあげていった。
避難勧告を市の全域に出した場合、見通しの悪い夜間に避難行動をとった市民が、かえって台風による強烈な風雨の被害に遭うのではないか。避難勧告を出さなかったら、すでに市全域に土砂災害警戒情報が発表されているなかで、自宅にとどまった市民が土砂災害に遭わないか。
この「はざま」に苦しんだすえに局長は23日午後9時58分、市全域への避難勧告を発令し、災害対策準備室の設置を決めた。その後、暴風雨のピークがすぎたため警報は順次解除され、市の防災体制も縮小していった。ところが24日朝に大雨警報が再び出たため、夜通しの勤務だった局長は休む間もなく対応に追われた。帰宅は24日午後6時ごろになった。
翌朝にけいれんしている姿を家族が見つけて、26日午前5時56分に脳出血のひとつ「橋(きょう)出血」で亡くなった。
基金は「実質的に災害対応の指揮を執り、最終的な判断をせざるを得ず、また、ほとんど休息する間もなく業務に従事したものであることから、強度の精神的又(また)は肉体的負荷を受けたものと認められ、異常な出来事・突発的事態に遭遇した」と判断し、公務災害と認定した。
地震や豪雨などの対応にあたった職員は精神的に疲弊しメンタルヘルス不調になる職員も少なくありません。実際に目の前で人が亡くなっている現場で対応するときもあるわけですし、判断を下す立場にあればストレスは相当なものです。
公務員で退職する人が増える部署のダントツは生活保護課ですが、災害対応にあたる部署も辞める職員が多いです。実際に被害を受けた人に私だって辛いんですと言える立場の職業じゃないですからね。家族や自分を押し殺して対応をする仕事を嫌になる人が一定数いることは理解に容易いのではないでしょうか。